集中を奪う「時間泥棒」を断つ

経営者の一日は、自分のものでありながら、いつのまにか誰かのもの、何かのものになっています。

朝、机に向かったときには「今日はこれを片づけよう」と思っていたはずなのに、夕方になって振り返ると、何を進めたのか思い出せない。返信に追われ、通知に手を止められ、人の用事に呼ばれ、気づけば一日が終わっている——。自分の事業のために独立したはずが、一番大切な仕事に手をつける時間だけが、いつも残っていない。

この感覚に覚えがあるなら、あなたの時間を奪っているのは、仕事の「量」ではないのかもしれません。一日のあちこちで集中を細切れにする、小さな「時間泥棒」たちです。

ここでは、その時間泥棒の正体を見きわめ、ひとつずつ断っていく考え方をお話しします。やることを増やすのではなく、集中を奪うものを削っていく——これが、忙しい経営者にとって一番効く時間管理だと、私たちは考えています。

自分が招き入れている「時間泥棒」もある

時間泥棒というと、外から飛び込んでくる邪魔——突然の電話、予定外の来客、急ぎの依頼——を思い浮かべるかもしれません。たしかに、それも一因です。

けれど、もっとやっかいなのは、自分が気づかないうちに招き入れている時間泥棒です。

仕事の合間に開くSNS。「ちょっと調べもの」のつもりで始めて、いつのまにか別の話題を追っている検索。鳴るたびに手を止めてしまう通知。これらは「サボっている」という自覚すらないまま、一日の集中を少しずつ削っていきます。

最初の一歩は、この事実を認めることです。一日を邪魔しているものの何割かは、外からではなく、自分の手元から始まっている。そう気づけたとき、はじめて手の打ちようが見えてきます。

「マルチタスク」という名の、最大の時間泥棒

もうひとつ、見落とされやすい時間泥棒があります。多くの人が「効率的だ」と信じている、マルチタスクです。

メールを書きながら電話に応じ、その合間に資料に目を通す。一見、たくさんの仕事をさばいているように見えます。けれど実際には、ひとつの作業から別の作業へ意識を移すたびに、脳は切り替えのコストを払っています。集中はそのたびに途切れ、戻すのにまた時間がかかる。結果として、ひとつずつ片づけたほうが、ずっと早く、ずっと正確に終わるのです。

集中力を必要とする仕事——企画、設計、計算、文章を書く仕事——ほど、この差は大きく出ます。わざわざ数字を持ち出すまでもないかもしれません。誰にも邪魔されずに一気に進めたとき、いつもの三時間の仕事が一時間で終わった——そんな経験が、あなたにもきっとあるはずです。

それこそが、時間管理が目指す状態です。

時間泥棒を断つ、三つの線引き

では、どうやって断つか。やることを増やすのではなく、境界線を引いて減らすという発想で考えます。

一つ目は、通知を切る時間をつくること。 一日中つなぎっぱなしにする必要は、本当はありません。集中して進めたい仕事の前に、メールを閉じ、SNSを閉じ、スマートフォンを伏せる。「本当の緊急時だけはこの番号に」という連絡手段をひとつ決めておけば、安心して残りを遮断できます。すべてを断つのではなく、緊急の入り口を一つだけ残して、あとは閉じる。これだけで、集中できる時間が一日のなかに生まれます。

二つ目は、人との境界線を引くこと。 友人や家族が「いつでも気軽に立ち寄っていい」状態は、優しさのようでいて、あなたの仕事時間を静かに奪います。働く時間と、人と過ごす時間を分ける。そして大切なのは、人と過ごす時間も、あらかじめ予定に組み込んでおくことです。家族や友人との時間をきちんと確保しておけば、罪悪感に引きずられて仕事中に呼び出されることが減り、かえって両方がうまく回りはじめます。

三つ目は、ひとつの作業に「全部の集中」を渡すこと。 マルチタスクをやめ、いま向き合う一つの仕事に、自分の注意をまるごと預ける。中途半端に三つを同時に進めるより、一つを一気に終わらせて、次へ移る。順番に倒していくほうが、結局は速いのです。

削るのは、いちばん軽い時間管理

新しい手帳術を覚える必要も、複雑なツールを導入する必要もありません。時間泥棒を断つというのは、何かを足すのではなく、引く作業です。

通知を閉じる。立ち寄りの線を引く。一度にひとつだけにする。——どれも、今日から、今この瞬間から始められます。忙しくて時間管理の勉強をする余裕などない、という方にこそ、この「引く」ことから入っていただきたいのです。いちばん手軽で、いちばん早く効く一歩だからです。

そしてもし、その奪われた時間が「具体的にどこへ消えているのか」を見きわめたくなったら、まずは記録から始めてみてください。何に、どれだけの時間を使っているかを書き出すことで、断つべき時間泥棒の輪郭がはっきりしてきます。記録を使って時間泥棒を見つける方法は、別の記事「時間を「記録」して、消えていく時間を見つける」で詳しくお話ししています。あわせて、時間管理そのものの全体像を整理した柱記事「経営者の時間管理 — 仕事に追われる毎日を変える「4つの鍵」」も、はじめの一冊としておすすめです。


時間は、増やすことはできません。けれど、奪われるのを止めることはできます。今日断った小さな時間泥棒の一つが、明日のいちばん大切な仕事のための、まとまった一時間に変わっていきます。

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