「任せる」ことで時間を取り戻す

一日のなかで、時間そのものを増やすことはできません。時間は、いくら欲しても新たに生み出せず、一度使ってしまえば二度と戻ってこない、限られた資源です。

それでも、「任せる」ことで、時間を取り戻すことはできます。

一年は8,760時間あります。多いように思えるかもしれません。けれど、試しに削っていくと、印象は変わります。

一晩あたり平均8時間の睡眠を引くと、残りは5,840時間。家族と過ごす時間として週48時間を引けば、3,344時間。さらに二週間の休暇を引くと、残るのは3,004時間ほどです。

一般的な年収は、年に2,080時間ほど働く前提で計算されることが多いといわれます(各種調査によると ※要検証)。一方、経営者はその倍近く ― 年に4,000時間を超えて働いてしまうことも、決してめずらしくありません。

この数字を眺めると、どこかが静かに犠牲になっていることが見えてきます。そしてその「どこか」とは、たいていの場合、あなた自身であり、ご家族であり、ひいては事業そのものなのです。

なぜ、私たちは抱え込んでしまうのか

事業を持つことの大きな利点は、いつでも誰かにタスクを任せられることです。

それなのに、多くの経営者が「自分でやったほうが早い」「人に頼むほどの仕事ではない」と考え、結局すべてを一人で背負ってしまいます。

その背景には、たいてい二つの思い込みがあります。

ひとつは、費用への不安です。誰かに頼めばお金がかかる ― そう感じて、つい二の足を踏んでしまう。

もうひとつは、「自分がやらなければ」という責任感です。誰もがヒーローでありたいと願います。けれど、その道を一人で突き進めば、いずれ何かがやり残されるか、雑なまま仕上がってしまいます。それは事業の評判にとって良いことではありませんし、ご家族のことを取りこぼしてしまえば、その代償は計り知れません。

「すべてを自分でこなせる人」という像は、頼もしく見えます。けれど実際には、その像こそが、あなたの時間を最も静かに奪っているのです。

「時間の値段」で考える

委任をためらわせる費用への不安は、目先の支出だけを見ているうちは消えません。

判断の軸を、ひとつ入れ替えてみてください。「いくらかかるか」ではなく、「自分の時間にいくらの価値があるか」です。

ひとつの目安があります。

その作業を誰かに任せる費用が、自分が本業で同じ時間に稼げる額より小さいなら、任せたほうがよい。

たとえば、本業で1時間あたり1万円を生み出せる人が、1時間かかる作業を3,000円で任せられるとします。

このとき、その作業を自分で抱えることは、節約しているように見えて、実は1時間あたり7,000円を静かに失っているのと同じです。支出として通帳に残らないぶん、その損失はなかなか気づかれません。

時間は取り戻せません。そして、経営者になったときに思い描いたすべてを実現するために、あなたにはもっと多くの時間が必要なのです。もし、ご家族に気持ちよく手伝ってもらえる作業があるなら、それはなお良い選択です。

何から任せればいいのか ― 三つの手順

「任せたほうがいい」と頭で分かっても、いざとなると何から手放せばいいのか迷うものです。そこで、小さく始めるための三つの手順をお伝えします。

手順1:本業ではない業務を書き出す

まずは、毎日こなしている「本業ではない業務」を、いくつか書き出してみてください。

本業ではない業務とは、あなたの収入の大半を生んでいない作業のことです。データ入力、請求書づくり、予約の調整、資料のフォーマット整え、掃除や買い出し ― 必要ではあっても、あなた自身でなくても回る仕事は、思いのほか多いものです。

手順2:「自分でなければ」を一つずつ問い直す

書き出した業務を、ひとつずつ問い直します。

実店舗があるなら、あなた自身がそこにいる必要はあるでしょう。けれど、開店から閉店までずっといなければならないでしょうか。それとも、比較的すいている時間帯だけ、誰かに任せられるでしょうか。

在宅で経理の仕事をしているなら、経理そのものを手放したくはないでしょう。けれど、家事の一部なら、外注してもよいかもしれません。

「自分でなければ」と思い込んでいた業務の半分は、たいてい「自分でなくてもよい」業務です。

手順3:小さく、一つだけ任せてみる

最初から全部を手放す必要はありません。書き出したなかで、最も気が重い作業をひとつだけ選び、誰かに任せてみてください。

任せる相手は、従業員でなくてもかまいません。オンラインの業務委託先でもよいですし、ご家庭のなかで分担してもらうこともできます。職場に来てもらうにせよ、オンラインで頼むにせよ、家のことを手伝ってもらうにせよ ― 誰かに任せれば、あなたの時間は自動的に空いていきます。

ひとつ任せてうまく回れば、次はもう少し大きな業務へ。やがて、事業が十分に忙しくなった段階で、本業そのものを担う人を迎えることもできるでしょう。外注と委任の可能性に気づき始めたとき、その先には限りない広がりが待っています。

一人で抱えない、という選択

一日の時間そのものを増やすことは、技術的にはできません。

それでも、すべてを一人で抱えていなければ、「時間が増えた」と確かに感じられます。そして空いた時間を、あなたにしかできない本業へ ― 収入を生み、事業を前に進める仕事へと注ぎ込めるのです。

「任せる」とは、手を抜くことではありません。自分の時間を、最も価値のある場所に置き直すという、経営者としての選択です。


今日、たったひとつでかまいません。あなたが抱えている「本業ではない業務」を、誰かに任せてみませんか。

そして、「任せる」をはじめとした時間の取り戻し方を、もっと体系立てて知りたい方へ。

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